YASUILAB

News

2026.01.29

【論文】Science Advancesに掲載

横井先生との研究論文です。早発型妊娠高血圧腎症(Eo-PE)患者血清中に増加する胎盤由来のLIMCH1を豊富に含む細胞外小胞(EVs)が、血管内皮細胞のタイトジャンクションタンパク質ZO-1を低下させて内皮バリア機能を破綻させ、血管透過性を亢進させることで病態形成に関与することを明らかにしました。

論文概略
早発型妊娠高血圧腎症(early-onset preeclampsia: Eo-PE)は妊娠34週未満に発症する重篤な妊娠合併症であり、母体の高血圧や蛋白尿、さらには全身性の血管内皮障害を特徴とします。しかし、その分子機構、とりわけ胎盤由来因子がどのように母体血管機能に影響を与えるのかについては十分に解明されていませんでした。本研究では、Eo-PE患者血清中の細胞外小胞(extracellular vesicles: EV)に着目し、プロテオミクス解析および胎盤組織のRNAシークエンシング解析を統合することで、病態に関連するEV搭載タンパク質の同定を試みました。その結果、LIM and calponin homology domain–containing protein 1(LIMCH1)がEo-PE患者由来EVに特異的に富む分子として同定されました。LIMCH1は胎盤の合胞体栄養膜細胞で高発現しており、Eo-PE症例では血中EV中のLIMCH1量が有意に増加していることが明らかになりました。機能解析の結果、LIMCH1を豊富に含むEVを血管内皮細胞に添加すると、タイトジャンクション構成タンパク質であるZO-1の発現が低下し、細胞間接着構造が破綻することが示されました。これにより内皮バリア機能が障害され、血管透過性が亢進することが確認されました。さらに、動物モデルにおいても同様のEV投与により肺血管の透過性上昇が観察され、LIMCH1含有EVがin vivoでも血管バリア機能を損なうことが実証されました。これらの結果は、胎盤由来のLIMCH1富化EVが母体循環へ放出され、全身性の血管内皮障害を誘導することでEo-PEの病態形成に寄与する可能性を示しています。本研究は、Eo-PEにおける血管透過性亢進の新たな分子基盤を提示するとともに、LIMCH1搭載EVを重症化予測のバイオマーカーや新規治療標的として活用できる可能性を示唆する重要な知見を提供するものです。

論文情報
LIMCH1-enriched extracellular vesicles promote vascular permeability in early-onset preeclampsia
S. Matsuo, A. Yokoi*, T. Ushida, K. Yoshida, H. Suzuki, M. Kitagawa, E. Asano-Inami, H. Yamada, R. Miki, S. Tano, K. Imai, I. Nagata, S. Kawaguchi, T. Yasui, Y. Yamamoto, H. Kajiyama and T. Kotani
Sci. Adv., 12, eaeb8806 (2026)
https://doi.org/10.1126/sciadv.aeb8806

Science Advances
Science Advances は、米国科学振興協会(AAAS)が刊行するオープンアクセスの総合科学ジャーナルであり、自然科学および応用科学の広範な分野における最先端研究を掲載する国際的主要誌です。本誌は、基礎科学から工学、生命科学、環境科学、社会科学に至るまで分野横断的な研究成果を対象とし、革新的かつ高い学術的インパクトを有する研究を迅速に世界へ発信することを目的としています。