2026.02.22
【論文】Science Advancesに掲載
博士課程・川口さんと助教・阿尻さん、修了生・三津屋さんがまとめた研究論文です。dCas9/gRNAシステムを組み込んだEV特異的遺伝子レポーター系および発光・蛍光標識EVを用いたin vivoトラッキング系を併用することで、血中・遠隔臓器由来の細胞外小胞(EVs)が糸球体濾過バリアを通過して尿中へ排出されることを実証し、尿中EVsが全身性疾患を反映し得るバイオマーカー基盤となる可能性を示した研究です。
論文概略
尿中に含まれる細胞外小胞(extracellular vesicles: EVs)は、腎疾患のみならず、がんや炎症など全身性疾患を反映する非侵襲的バイオマーカーとして注目されています。しかし、尿中EVsの起源については長らく議論があり、主に腎臓や尿路上皮由来と考えられてきました。血中あるいは遠隔臓器由来のEVsが実際に腎糸球体を通過し、尿中へ排出されるかどうかについては、直接的な実証が十分ではありませんでした。本研究では、①dCas9/gRNAシステムを組み込んだEV特異的in vivo遺伝子レポーター系と、②発光・蛍光レポーターを組み込んだEVsを用いた可視化トラッキング系の二つのアプローチを併用し、EVsの体内動態と腎排泄経路を多角的に解析しました。前者では、EVsに搭載されたgRNAが受容細胞内でdCas9依存的にレポーター活性を誘導する系を構築し、EV由来分子の細胞内移行を特異的に検出できるトラッキング手法を確立しました。後者では、標識EVsの体内分布や腎臓への集積、尿中への出現をリアルタイムで可視化しました。これらの独立したトラッキング手法により、一定サイズ以下のEVsが糸球体濾過バリアを通過し、最終的に尿中へ排出されることが明確に示されました。特に、EVsの粒径や表面特性が濾過効率に大きく影響することが明らかとなり、糸球体がナノスケール小胞に対しても選択的透過性を有することが示唆されました。さらに、腫瘍細胞由来EVsを用いたモデルでは、がん由来EVsが血中から腎臓を経由して尿中へ到達することが確認され、尿中EVsが全身由来情報を反映し得ることが実証されました。これらの結果から、本研究は複数のin vivoトラッキング技術を統合することで、「血中・遠隔臓器由来EVsが糸球体濾過を経て尿中へ排出される」というメカニズムを実証した研究であり、尿を用いた全身性疾患の非侵襲的診断や経時的モニタリングを可能にする液体生検技術の理論的基盤を提供する重要な成果といえます。
論文情報
Glomerular routing of tumor-derived extracellular vesicles substantiates urinary biopsy
S. Kawaguchi*, T. Ajiri*, R. Mitsuya, R. Tsuchiya, K. Kunitake, Y. Tanaka, T. Yokoyama, K. Sato, Y. Sato, Z. Zhu, K. Chattrairat, Y. Kobayashi, K. Inoue, K. Imaeda, K. Ueno, S. Ryuzaki, A. Kato, Y. Kimura, A. Natsume, R. Kojima* and T. Yasui*
Sci. Adv., 12, eaeb0555 (2026).
https://doi.org/10.1126/sciadv.aeb0555
Science Advances
Science Advances は、米国科学振興協会(AAAS)が刊行するオープンアクセスの総合科学ジャーナルであり、自然科学および応用科学の広範な分野における最先端研究を掲載する国際的主要誌です。本誌は、基礎科学から工学、生命科学、環境科学、社会科学に至るまで分野横断的な研究成果を対象とし、革新的かつ高い学術的インパクトを有する研究を迅速に世界へ発信することを目的としています。
